甲状腺・内分泌疾患
Endocrine Disorders
内分泌疾患とは?ホルモンとは
内分泌疾患とは、体の中で分泌されるホルモンの量が多すぎたり少なすぎたりすることで起こる病気のことです。ホルモンとは、体のある臓器で作られ、血流にのって別の臓器に作用する非常に微量な物質です。その濃度を例えるなら、50mプールにスプーン1杯の砂糖を入れたくらいといわれており、体の中では非常に繊細なコントロールがされています。ホルモンは体の成長や代謝、血圧、体温、エネルギーの使い方など、さまざまな働きを調整しており、健康な生活を維持するために不可欠です。
内分泌疾患は、ホルモンの量が過剰になったり不足したりすることで起こる病気です。
代表的なホルモンに関する臓器には、甲状腺、脳下垂体、副腎などがあります。
甲状腺疾患
甲状腺ホルモンとは
甲状腺ホルモンは、首の前側にある甲状腺という臓器から分泌されるホルモンです。
体の「エネルギー代謝」を調整しており、全身のさまざまな働きに関わっています。
具体的には、
- 体温を保つ
- 脈の速さを調整する
- 体重の増減に関わる
- 脳や心臓、筋肉の働きに関わる
といった役割があります。
甲状腺ホルモンが多すぎても少なすぎても、体に不調が出てきます。
代表的な病気として、バセドウ病(ホルモンが多すぎる病気)や橋本病(ホルモンが不足する病気)があります。
①バセドウ病
バセドウ病とは
バセドウ病は、甲状腺ホルモンが必要以上に作られてしまう病気です。
甲状腺は首の前側にある臓器で、体のエネルギー代謝を調節する「甲状腺ホルモン」を分泌しています。
このホルモンが過剰になると、動悸(どうき)、体重減少、手のふるえ、汗をかきやすいなど、体が常に「フル回転」の状態になります。
20〜40代の女性に多い病気ですが、男性や高齢の方にもみられます。
バセドウ病の検査
バセドウ病の診断には、以下の検査が行われます。
血液検査
- 甲状腺ホルモン(FT3、FT4)が高いかどうか
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH)が抑えられているかどうか
- 自己抗体(TRAb)の有無
超音波検査(エコー)
甲状腺の大きさや血流の状態を調べます。
アイソトープ検査(必要に応じて)
放射性ヨウ素を使って甲状腺の働きを詳しくみる検査です。
バセドウ病の原因
バセドウ病は 自己免疫疾患 の一つです。
本来は外敵を攻撃する免疫が、自分の甲状腺を刺激してしまい、ホルモンを作りすぎることで発症します。
ストレスや喫煙、遺伝的な体質などが関与すると考えられています。
バセドウ病を治療しなければいけない理由
バセドウ病を放置すると、
- 心房細動(不整脈)
- 心不全
- 骨粗鬆症
- 体重減少・筋力低下
など、全身に影響が出ます。特に高齢の方では心臓に負担がかかり、命にかかわることもあるため、早めの治療が大切です。
バセドウ病の治療について
治療には大きく3つの方法があります。
- 薬による治療(抗甲状腺薬)
まずは内服薬でホルモンの分泌を抑える方法が一般的です。 - 放射性ヨウ素治療(アイソトープ治療)
内服で効果が不十分な場合や再発を繰り返す場合に行います。 - 手術(甲状腺切除)
それぞれの治療法にはメリットとデメリットがあります。そのため、年齢・生活スタイル・ご希望に応じて、最適な方法を相談しながら一緒に決めていきます。日本ではまず薬による治療が選ばれることが多いですが、薬の副作用で内服を続けられない場合や、内服で十分な改善が得られない場合、甲状腺が大きすぎる場合などには、放射性ヨウ素治療や手術が検討されることもあります。
②慢性甲状腺炎(橋本病)
慢性甲状腺炎(橋本病)とは
慢性甲状腺炎は、免疫の異常により甲状腺に慢性的な炎症が起こる病気です。
「橋本病」とも呼ばれ、日本人に非常に多くみられる甲状腺疾患です。
炎症によって甲状腺の働きが徐々に低下し、甲状腺ホルモンが不足(=甲状腺機能低下症)することがあります。
女性に多く、特に中年以降の方によく見られます。
慢性甲状腺炎の検査
診断には主に以下の検査を行います。
血液検査
- 甲状腺ホルモン(FT3、FT4)が低いかどうか
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上昇しているかどうか
- 自己抗体(抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体)の有無
甲状腺エコー検査
- 甲状腺の大きさや炎症の状態を確認します。
慢性甲状腺炎の原因
慢性甲状腺炎は、自己免疫疾患のひとつです。
免疫が自分の甲状腺を攻撃することで炎症が起こります。
家族に甲状腺疾患のある方がいる場合や、女性ホルモンの影響が関与していると考えられています。
治療が必要な理由
慢性甲状腺炎そのものに即座の危険はありませんが、甲状腺機能が低下すると、
- 体のだるさ、冷え、体重増加
- 便秘、むくみ、皮膚の乾燥
- 脈が遅くなる、気分の落ち込み
など、生活に支障をきたす症状が現れます。
また、高度な機能低下が進むと 粘液水腫 など重篤な状態になることもあるため、適切な管理が必要です。
慢性甲状腺炎の治療
炎症そのものを直接治す薬はありませんが、甲状腺ホルモンが不足している場合にはホルモン補充療法(レボチロキシン内服)を行います。
内服によってホルモンを正常に保つことで、症状を改善し、日常生活を安心して送ることができます。
その他の内分泌疾
その他の内分泌疾患について
甲状腺以外にも、副腎・下垂体・性腺など、さまざまな臓器から分泌されるホルモンが全身の働きを調整しています。ホルモンの異常は、一見すると生活習慣病のように見える症状としてあらわれることがあります。
たとえば、何らかの原因がある高血圧を二次性高血圧、何らかの原因のある肥満を二次性肥満と呼びますが、その原因の一つにホルモンの分泌過剰があります。
- 二次性高血圧:副腎由来のホルモン(アルドステロンなど)が原因で血圧が上がるケース
- 二次性肥満:クッシング症候群などホルモン異常による体重増加
- 血糖コントロール不良:糖尿病治療をしても改善しにくい背景に内分泌疾患が隠れていることがある
このように「実はホルモンの病気が隠れていた」というケースも少なくありません。
当院では、必要に応じてホルモン検査を行い、生活習慣病の影に潜む内分泌疾患を見逃さない診療を心がけています。
①原発性アルドステロン症(高血圧に関与)
原発性アルドステロン症とは
副腎(左右の腎臓の上部に位置する親指大の臓器)からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌されることで、高血圧や低カリウム血症を引き起こす病気です。高血圧の方の中で5〜10%がこの病気といわれており、「二次性高血圧」の代表的な原因です。
検査
血液検査でレニンとアルドステロンのバランスを調べます。スクリーニングで異常が疑われた場合は、総合病院に紹介させて頂き、さらに詳しい負荷試験やCT検査、副腎静脈サンプリング(AVS)を行って診断となります。
原因
副腎に小さな腫瘍ができる場合や、副腎全体が過剰に働くタイプがあります。
治療が必要な理由
放置すると動脈硬化が進みやすく、心筋梗塞や脳卒中、腎障害などのリスクが高まります。ホルモンの働きにより低カリウム血症となり、低カリウム血症の症状(脱力感など)をきたします。また、高血圧の原因となるため、治療により高血圧が根本的に改善する可能性があります(治療を行っても高血圧が残ってしまうこともあります)。
治療
腫瘍がある場合は手術で摘出することがあります。両側の副腎からホルモンが出ている場合やその他の理由で手術を行わない場合は、内服薬(アルドステロンの働きを抑える薬)で治療します。
②クッシング症候群(肥満・高血圧・高血糖に関与)
クッシング症候群とは
副腎から分泌されるコルチゾールというホルモンが過剰になる病気です。満月様顔貌(顔が丸くなる)、中心性肥満(手足が細く、お腹だけ太る)、皮膚の赤紫色の線条などが特徴です。高血圧や糖尿病、骨粗鬆症を引き起こすこともあります。
検査
血液や尿でコルチゾールを測定します。さらにホルモン負荷試験を行い、副腎CTや下垂体MRIで原因部位を調べます。
原因
副腎に腫瘍ができる場合や、下垂体腫瘍からACTHというホルモンが過剰に分泌されることで発症します。
治療が必要な理由
未治療のままだと糖尿病や高血圧、感染症、骨折などの合併症が進行し、寿命に影響することがあります。
治療
副腫瘍の摘出手術を行うことが根本的な治療になりますが、困難な場合は薬物治療を行うこともあります。腫瘍摘出後は逆にコルチゾールの分泌が急激に低下してしまうため、体が慣れるまではコルチゾールの補充療法を行います。
③先端巨大症(血糖悪化に関与)
先端巨大症とは
下垂体にできた腫瘍から成長ホルモンが過剰に分泌されることで、顔や手足が大きくなる病気です。成人で発症するため、身長は伸びませんが、手指が太くなる、靴や指輪のサイズが合わなくなるといった変化がみられ、久々に会った友人に顔貌の変化を指摘されるということもあります。
検査
血液検査で成長ホルモン(GH)とIGF-1を測定します。IGF-1は肝臓で作られるホルモンで、成長ホルモンの働きが体にどのくらい影響しているかを示す目安になります。これらの結果、疑いありの場合は、さらにブドウ糖負荷試験を行います。通常では、ブドウ糖を摂取すると成長ホルモンの分泌は低下しますが、先端巨大症では分泌の低下がみられないという特徴を用いた検査です。ここで更に疑いが強まる場合は総合病院を紹介させて頂き、下垂体のMRI検査や治療方針の検討を行うという流れになります。
原因
下垂体にできる良性腫瘍(下垂体神経内分泌腫瘍)が原因です。
治療が必要な理由
先端巨大症では、過剰な成長ホルモンによる全身への影響だけでなく、下垂体腺腫そのものが脳内で圧迫を起こすことがあります。そのため、糖尿病や高血圧、心臓病、睡眠時無呼吸症候群などの合併症が進行するリスクがあるほか、腫瘍による圧迫で頭痛や視野障害(特に視野の外側が欠ける症状)が生じることがあります。
治療
第一選択は腫瘍を摘出する下垂体手術です。手術が難しい場合は薬物療法や放射線治療が行われます。
しみず内科でできること
バセドウ病や慢性甲状腺炎に関しては、診断・治療・経過のフォローまでしみず内科で対応可能です。
その他の内分泌疾患については、クリニックで行える検査や診察はすべて実施し、必要に応じて総合病院にご紹介し、追加の検査を受けていただく場合があります。診断確定が確定し、治療開始となりましたら、病状が安定した後は、当院で治療を継続いただくことも可能です。
不安なことや気になる症状がありましたら、まずはお気軽にご相談ください。