糖尿病・代謝内科
Diabetes
糖尿病とは?
糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)が長く高い状態が続く病気です。血糖を低下させる働きがあるのは、膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンというホルモンただ一つです。インスリンは、食べ物から取り入れたブドウ糖を体の細胞に届けてエネルギーとして使えるようにすることで、血糖値を下げる働きを持っています。
糖尿病では、このインスリンが十分に作られなかったり、うまく働かなかったりするために、血液の中でブドウ糖が処理しきれず、血糖値が高くなってしまいます。
糖尿病は古代から知られており、紀元前1500年ごろのエジプトの医学文書には「尿が甘く、蟻が寄ってくる」と記録されています。それから現在まで約3500年の月日が流れていますが、糖尿病の治療の革命であるインスリンの発見・臨床応用は約100年前と意外と最近のことでした。そしてこの20年ほどで糖尿病の治療は劇的に進化しており、血糖を以前よりも安全に管理できる内服薬や注射、生活習慣指導の方法が充実してきています。
糖尿病の原因は?
体でインスリンが十分に作られない、またはうまく働かないことが原因です。
○インスリンが十分に作れなくなる場合
1型糖尿病
体の免疫が誤って膵臓のインスリンを作る細胞を攻撃し、インスリンをほとんど作れなくなる病気です。子どもや若い方に多いですが、大人でも発症します。最近では、がん治療で使われる「免疫チェックポイント阻害薬」の副作用で、まれに1型糖尿病が起こることが知られています。
膵臓の病気や手術
膵炎や膵臓の手術により、インスリンを作る力が低下することがあります。
○インスリンがうまく働かなくなる場合
2型糖尿病
遺伝的な体質に加えて、食べ過ぎ、運動不足、肥満、加齢などが重なると、インスリンが十分に出ても体の細胞でうまく働かなくなります。これを「インスリン抵抗性」といいます。
薬やホルモンの影響
一部の薬やホルモンの異常でも、インスリンの働きが弱まることがあります。
なぜ治療が必要?
ブドウ糖は体の大切なエネルギー源ですが、血糖が高い状態が長く続くと、血管やその他の細胞に負担がかかります。その結果、目や腎臓、神経、心臓にダメージを与え、以下のような合併症を引き起こす原因となります。
- 心筋梗塞や脳卒中などの心血管病
- 失明の原因となる網膜症
- 腎臓の病気(場合によっては人工透析が必要になることも)
- 足の壊疽(えそ)や神経障害
糖尿病はあまり自覚症状がありません。血糖が高いと「痛い」「苦しい」など症状があれば多くの方は直ちに受診をし、治療をされると思います。それがないために糖尿病は治療をせずに長年過ごされるということが比較的多いのではないかと感じています。しかし、体へのダメージは着実に進んでおり、これが糖尿病の恐ろしいところです。10年後、20年後の未来を守ること、糖尿病をお持ちの方が、そうではない方と同様に健康で長生きして頂くことが糖尿病治療の目的です。気になる症状がある方、健診で血糖値が高めと言われた方は是非一度ご相談下さい。
糖尿病の検査について
糖尿病が心配な方や、すでに糖尿病と診断されている方にとって、「どのような検査が行われるのか」は大切なポイントです。当院では、糖尿病の診断と治療、そして合併症の早期発見のために、以下のような検査を行っています。
1. 糖尿病の診断に関わる検査
空腹時血糖・随時血糖
血液中のブドウ糖の値を調べます。空腹時血糖(10時間以上食事をしていない状態の朝の血糖値)と、食事のタイミングに関係なく測る随時血糖があります。
75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
糖尿病が疑われるときに行う精密検査です。空腹時にブドウ糖を含んだ飲み物を飲み、2時間後までの血糖値やインスリンの分泌量を測定します。境界型糖尿病や糖尿病の診断に役立ちます。
HbA1c(ヘモグロビン エーワンシー)
過去1〜2か月間の血糖の平均を示す値です。日々の血糖変動だけでなく、長期的な血糖コントロールの指標になります。
尿検査
尿糖の有無、尿タンパクの有無を確認します。糖尿病の診断だけでなく、腎臓への影響を早期に知る手がかりとなります。
インスリン分泌の評価
空腹時インスリン値で、膵臓からどのくらいインスリンが分泌されているかを調べます。治療方針を決める上で重要です。
2. 合併症を調べる検査
糖尿病は血糖が高い状態が続くことで、さまざまな合併症を引き起こすことがあります。そのため、定期的なチェックが欠かせません。
腎臓の検査
尿中アルブミン、血清クレアチニン、eGFRなどを測定し、腎機能の状態を確認します。
眼の検査
眼底検査で網膜に異常がないかを調べます。糖尿病網膜症の早期発見に重要です。定期的な眼科受診をお勧めしてまいります
神経の検査
感覚神経を確認するために、振動覚・知覚の検査やアキレス腱反射を調べます。
心臓・血管の検査
心電図、ABI(足首と上腕の血圧比)などで心臓の状態や動脈硬化の有無を確認します。動脈硬化を疑う場合は、頸動脈エコーも行います。
足のチェック
傷や血流の異常がないかを定期的に確認します。糖尿病性足病変の予防に役立ちます。
糖尿病は「血糖が高いかどうか」だけを見る病気ではありません。インスリンの分泌能や合併症の有無を確認しながら、総合的に診療を進めていきます。当院では、必要な検査を組み合わせて、一人ひとりに合った診療を行っております。
糖尿病の診断
糖尿病の診断は、以下のいずれかで判定されます。
1.空腹時血糖値(食事をしていない状態で測定)
→ 126mg/dL以上
2.75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
→ 2時間値が200mg/dL以上
3.随時血糖値(食事の有無に関係なく測定)
→ 200mg/dL以上
4.HbA1c(過去1〜2か月の平均血糖の指標)
→ 6.5%以上
※診断には通常、複数回の検査や組み合わせが必要です。
治療について
○治療の開始には「一人ひとりに合わせた目標設定」
糖尿病の治療は、ただ血糖値を下げるだけではなく、年齢や生活習慣、合併症の有無などを考慮して「その方に合った治療目標」を設定することが大切です。
当院では、一人ひとりに合った目標を一緒に考え、無理のない形で治療を進めていきます。
○まずは生活習慣の見直しから
糖尿病治療の第一歩は「食事」と「運動」です。
- 食事療法:管理栄養士がバランスの良い食事や食べ方の工夫をご提案します
- 運動療法:日常生活に取り入れやすい運動方法をご案内します
こうした生活改善だけで、血糖値が大きく改善する方も少なくありません。
○薬物療法について
生活習慣の見直しだけで治療目標に届かない場合には、お薬の使用を検討します。糖尿病治療薬は、大きく分けて「インスリン分泌を助ける薬」と「それ以外」になりますが、それ以外を3つに分けて下記のようになります。
- インスリンの分泌を助ける薬
- インスリンの効きを良くする薬
- 糖の吸収をゆっくりにする薬
- 尿に糖を排出させる薬(SGLT2阻害薬など)
また、必要に応じて以下の注射製剤を検討いたします。
- インスリン注射
- GLP-1受容体作動薬(体重減少効果も期待できる注射薬)
当院では、身長と体重のバランス(BMI)、インスリン分泌量、生活スタイルなどをふまえて、どの治療法が適しているかをご提案します。
糖尿病治療は、医師が一方的に決めるものではありません。
患者さんとしっかり相談し、納得いただいた上で治療を開始することを大切にしています。